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#129 峠の犬
~峠の犬~


ある晴れた日、久しぶりに小入谷林道を訪れた。『小入谷』の集落を越えると見えてくる、見慣れた林道の黄色い看板。工事中の表示も無い。まずは現状が保たれていることにホッとする。未舗装ながら、その平らな路面といい、十分な道幅といい、いつ舗装工事が始まっても不思議ではないその状況に、訪れる時はいつもビクビクしてしまうのだ。

この日は、実に爽やかな秋晴れ。林道からは申し分の無い風景が広がっている。霞みもほとんど無い澄んだ空気。遠く広がる山並みや山間の谷間の集落がはっきり見えるのが、何とも嬉しい。程よく焦げたパンのような色合いの林道路面に山の木々の緑、爽やかな青空とおいしそうな白い雲、実にすがすがしい空気。聞こえるのは風の音と時折遠くから響く獣(猿?)の声、そしてやや寂しげな鳶の鳴き声など、私にとって本当に最高の空間なのである。

「今日は若狭の海が絶対に見えるだろうな」など思いながら峠を目指す。心地よく車を走らせ、やがて福井県との県境である小入峠が見えてくる。そしてまた見慣れた林道標識と峠の碑が視界に入る。しかし、あれ?何かその横で何か白いものが動く。キツネ??それにしては色がおかしい。ゆっくり車で近づく。多少は警戒しているようだが、ほとんどそこから動こうとはしない。さらに近づいてみる。あまり目のよくない私でも十分に判別することができた。お稲荷さまにも見えたその動物は「犬」だった。何か疲れた感じのする真っ白な犬‥。「なーんだ」と思われるかもしれないが、このような所ではむしろ普通の犬を見るほうが珍しい。逆に鹿や猿、イノシシ‥など普段見ない動物たちを、こういう所では普通に見かける。したがって家で飼われているような普通の犬が、このような所にいることは滅多に無い。はぐれた猟犬などとたまに出合うことはあるが、野犬さえも私は一度も見たことが無いのだ。

まさに峠という特等席で、ゆっくりと日向ぼっこをする白犬。車から降りて周りの風景を見る私を、細い目で追っている。少し立ち上がってこちらに歩きかけようとするも、すぐに座って、また日向ぼっこに戻る。別にこちらに危害を加えそうに無いな、ということがお互いにわかったので、それぞれが自分の世界に浸る。気ままに昼寝する犬に対抗するわけではないが、私も峠で気ままに昼食をとる。買ってきたパンを食べながら見る峠からの景色、思っていたとおり、この日は若狭の海が美しく見えた。少し風があり肌寒いものの実にすがすがしく心地よい峠でのひと時。もちろん誰もやって来ない。峠にいるのは私だけ、いや今回は白犬も一緒か‥。

昼食のパンを一切れ投げてやると、少し間をおき、横になったままパクっと一口。 しかし、それ以上別にねだりもしない。全くガツガツしたところが無い。そして、また横になって目を細める。しばらくしてもう一切れパンを投げてみた。するとまたまたパクっと一口。何かそれがやけに無邪気に感じてしまう。

その犬は後ろ足が不自由なようだった。怪我をしたのか、それとも病気なのか。きっとどこかの家で飼われていたのだろう、人に対する警戒心は全く無い。はぐれて迷い込んでここに来たのか、それとも捨てられてしまったのだろうか。このような峠に餌となるようなものは何も無い。もちろん自分で餌を捕るような俊敏な動きなど、とてもできそうに無い。一体何を食べて生きているのか‥。それでも、そんなことは全く心配御無用とばかりに、その白犬は目を細めて峠で気持ちよさそうに昼寝を続ける。

ふと思った。人間ならこういう状況ならどうするだろう。体はもう自由に動かない、食べるものも無い、助けてくれそうなものもいない、家からは遥か遠く離れた場所、雨風をしのげそうな所も無い‥つまり生死に関わる極限の状態だ。そんな時、人間はどうするだろう。それを考えると、この白犬のこの落ち着きようは一体何なのだろう。このような状況で無邪気にパンを食べる姿、日向ぼっこをする姿が、何ともたくましく思えてしまうのだ。細かなことに慌てふためいたり腹を立てる、何をさしおいても我が身第一で周囲のことは考えない、自らの利益を守るため虚偽で身を固める、腹いせに見知らぬ他人を攻撃する‥、そんな人間が何かとても情けなく惨めなものに感じてしまう。犬にそれだけの知能が無いから、といったらそれまで。しかし少なくとも自然界の中で、自然に悪影響を与えているのは人間だけ、地球を壊そうという行為をしているのは人間だけ。動物の中で一番臆病で情けないのは人間なのかもしれない。

峠でこんなことを考えるなんて思わなかった。食事を終え、峠を下って廃校の写真を撮った後に、帰路につくため再び峠を越えた。そしてその時もやはり峠には、先程と同じようにあの白犬がのんびりと日向ぼっこをしていた。次にここを訪れる時にこの犬が居るはずもないのだが、峠の犬の風景はこの先も忘れそうにない。










http://www.geocities.jp/kondodoraibuiko_ne021/index.html
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【2007/10/12 23:53】 | 林道 | page top↑
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