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#171 蔵とワイヤーの風景
~蔵とワイヤーの風景~


苔むし、柱や屋根が歪んでしまって今にも倒壊しそうな老家屋や蔵たち。これらは、人が住まなくなった村だけではなく、山深い過疎の村でもけっこう見かける。人が住まなくなるということが、長い歴史を刻んできた老家屋たちにどのような影響を与えるのかということの科学的なことはわからないが、雨戸が締め切られて光が遮られ、空気の流れが無くなることの悪影響は、素人の私でも想像がつく。雪深い地域ではこれに加えて、屋根に降り積もった雪の重みや多量の水分がゆがんだ家屋にのしかかり、主のいなくなった老家屋に致命的なダメージを与えることになる。そういう地方では、雪下ろしをされない廃屋が一冬で倒壊してしまったということも決して珍しくないこと。‘倒壊’は、廃屋にとっては避けられないことなのかもしれないが、その風景は様々だ。


先日、大変心に残る風景と出合った。薄暗い杉林の隙間から差し込む日差しの中で、その風景は輝いて見えた。倒れかかった蔵に結わえられたワイヤーが、先にある木につながれている。蔵が歪めば歪むほど、倒れようとすればするほど、そのワイヤーが蔵の土壁に食い込んでゆく。以前見た時も同じようにワイヤーで結わえられていたが、その時より遙かに建物の倒壊は進み形も崩れてきている。そして土壁にワイヤーがよりいっそう食い込んでいる。今にも崩れそう、支えているワイヤーそのものが土壁を切断しそう、そんな不安定な緊迫感が、周囲とは明らかに違う雰囲気を作り出している。ワイヤーの存在がなければ、この蔵はとうに倒壊しているだろう。しかしワイヤーで支えたところで、この先長きにわたって倒壊を防げるわけではないというのは明らかなこと。それでもはられたワイヤー、そこに何か大きな背景を感じるとともに、人気の無いこの集落跡を守ろうとする人たちの存在に何か心が安らぐ思いがするのである。私にとってこの歪んだ蔵とそれを支えるワイヤーの風景は、実に多くのことを語りかけ、そして多くのことを感じさせてくれる。

この日訪れたのは、鈴鹿の山中の『明幸』という小さな集落だった。集落といっても、ここから人々の姿が消えてもう38年にもなる。早くから離村が進んでいたこの地の家屋は全てが倒壊し朽ち果て、もうその姿を見ることができない。住居跡であろう地をよく見ると、苔むした柱の残骸や、腐らずに残る釜や陶器などが見られる。斜面を見上げると、いくつかの蔵が何とか持ちこたえて残されているのであるが、それらの姿が見られるのも雑草が姿を消す時期だけのこと。平地らしき所がほとんどなく、今のこの風景からかつて13戸もあったという村の風景をイメージすることは何とも難しい。残っている石垣から住居や生活道の存在を推測し、それとかつての村在りし頃の写真を重ね合わせることで何とか具体的なイメージが浮かびあがるのであるが、それでもやはり今の風景とは別物のように感じてしまう。

小さな広場には分校跡(鳥居本小学校武奈分校)の石碑が残る。そこには「平成2年廃校」と書かれてあるが、実際は生徒がいなくなって学校としての役割を終えたのは、それより遙か以前で昭和49年のこと。平成2年に取り壊されるまでの15年余り、分校校舎は無人の地に残っていたことになる。にぎやかなはずの学校校舎から何の声も聞こえない光景は実に寂しいもの。そのことを思うと今、学校跡地の片隅に残る倒れたトーテムポールからその頃の寂しさの余韻が伝わってくる。しかし同時に温もりも感じることができるのは、やはりそこに人の匂いがあるからなのだろう。これを作った子供たちは今どこでどうしているのだろう、など考えたりするのも今のこの地ではあまり意味のないことかもしれないが、やはり考えてしまったりする。

この分校跡地に車をとめ、雑草から解放された石垣沿いの細い生活道を上ると、先に書いた‘歪んだ蔵とワイヤー’の風景に出合う。一見、冷たく人のにおいの感じられないこの地『明幸』の風景なのだが、この‘歪んだ蔵とワイヤー’からは分校跡のトーテムポールとは比較にならないほどの強い人の匂いを感じることができる。それは進行形の温もりがあるからなのだろう。この先、何時までこの蔵が倒壊を免れるのかはわからない。しかしこの時見た風景は、ここを大事にしている人たちがいることとを知らせてくれるとともに、ここが故郷の地ということを強く感じさせてくれるのである。









http://www.geocities.jp/kondodoraibuiko_ne021/index.html
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【2008/12/26 06:02】 | 滋賀県山村・廃村・自然 | page top↑
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