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#216 徳山にて、カメラマン、吉村朝之氏を思う
~徳山にて、カメラマン、吉村朝之氏を思う~






久しぶりに訪れた「徳山」。今は巨大なロックフィルダムが築かれて村の大半が湖底に沈み、満々と水を湛えるダム湖がそこにある。当然、かつての村の姿など見えるはずもないのだが、まだ水のなかった時のそこの風景は今も目に焼きついており、そのためか深い湖の緑の湖面を透かしてその風景が見えるような気がする。昔の風景のイメージを持っているか持っていないかの違いはそこで、持っていなければイメージを浮かべることは難しく、そこにある現実の風景が見えるだけ。解体されること無く最後まで残った徳山小学校に少しずつ水が迫り、今にも飲み込まれようとしていた時の光景は実に残酷で切なく悲しいものだった。その小学校校舎も、今はこの冷たい湖底で静かに眠る。













先日、ある一人のカメラマンが亡くなった。岐阜県在住の吉村朝之(よしむらともゆき)さんだ。地元の新聞などでも伝えられていたので、ご存知の方もあることだろう。享年67才。早すぎる死だ。氏がこれまでに残したものは限りなく大きく、体制に臆すること無い頑な姿勢や時代を見つめる鋭い眼、自然を愛する心などは、見る者に多くのことを訴えかけ、感動を与えた。私自身、生きていく上でたくさんのことを学び、そして教えられた。もちろん到底氏には及ぶものではないのだが、自然や廃村などを見つめる時には、常に氏の存在がそこにあった。吉村さんのこれまでに残された業績を思うと、私などがつながりを持つことができたこと自体が不思議なのだが、これも吉村朝之さんという一人の人間のお人柄に尽きると言っていい。氏に対しては、只々感謝の気持ちでいっぱいで、それをことばでは十分に言い表すことはできない。

吉村さんとのつながりのきっかけは、当サイトにいただいたメールからだった。当初は何をされている方かもわからず、ただやけに岐阜県の周辺の廃村について詳しく書かれていたので、自分と同じようにそういうものに惹かれている人なんだろうと思うだけだった。ある時、やり取りの中であまりに詳しくご存知なので「ぜひ、本を書かれたらいかがですか?」など私が言ったことで「実は私はマスメディア関係の仕事を・・」と、初めて正体を明かされた。それでもその時は多くを語られることはなかった。





そして、ネットで検索してみて思いっきり驚いた。世界的な沈船ダイバーであり日本を代表する水中カメラマンであり、テレビ番組企画制作、自然・山岳地など極地取材や映像作成・・等、他にも多くのことを手がけ、これまでにも大変な実績を残されている方だったのだ。そして既に「源流をたずねて」シリーズをはじめ、新聞への連載など数々の執筆活動もされている。テレビ番組では、私がよく見ていた名古屋テレビの「Let’s ドン・キホーテ」の制作もされていた。そういえば同番組で徳山村や尾羽梨、茨川などの廃村が取り上げられていたのを思い出し、「そうだったのかぁ‥」など納得したものだ。それにしても、本当に驚きだった。

そういう方に「本を書かれたらいかがですか?」など、何ともえらそうに失礼なことを言ってしまったと思い、早速お詫びの連絡を入れた。ところが、逆に叱られることになる。要約するとこうだ。「日本人の悪い部分として、有名人や芸能人などに弱い。つまり、そうした者を見上げてしまう傾向にあるが、これは良くないこと。みな同等、同じ位置ではないのか。自分もごくごく普通の人で、たまたま仕事の関係で、そうした方面に多少、詳しいといった程度である。自分からするとこれは差別でもある」と・・。こういう業界にいるというだけでエラそうにする人間が多い中でのこのことば、それに驚き感動した。このようなローカルなテーマの小さなサイトの一管理者である私に声をかけ、面倒な質問に対しても嫌な顔一つせずていねいに答えてくれて、数多くの貴重な情報や資料まで惜しみもなく提供してくれたことなどが、そのことばと全てつながるのだった。そして以降、氏の生き方や考え方、姿勢などは一つの指針として私の支えとなっていく。ある時「勝手に決めているのですが、実は吉村さんは、僕のお師匠さんなんですよ」と言うと、「あっ、は、はー」と笑っておられたが、廃村に同じような姿勢で向かい合っている者ということで容認してもらえたかな?などと、勝手に思ったりしたものだった。





お出会いして7年間、実際に顔を合わせることができたのは数える程なのだが、メールや電話でのやり取りはけっこうあり、その都度多くのことを学ばせていただいた。ご自身も「キズナのチカラ」や「なるほど!ザ・ニッポン」などテレビ番組に出演されることも少なくなく、その気さくで飾り気なく温かい人間性は、画面を通しても大いに伝わってきたものだ。きっと多くの人を引きつけておらるのだろう、などと見るたびに感じた。夫として、父としてかけがえのない存在を失われることとなったご遺族の悲しみとは比ぶべくも無いが、本当にその悲しみは大きく、私自身の中でも大きな支えを失ってしまった気がする。それとともに表現者としてまだまだ沢山のやり残したことがあったであろうということを思うと、その早すぎる死が何とも残念でならない。それでも私が知っている「吉村朝之」は、ほんのごく一部。その人望の厚さや人間関係の広さを思うと、はかり知れない哀惜の思いが今、氏に注がれているのは間違いない。













この日「徳山」を訪れたのは、ずっと以前から「徳山」のダム問題などの取材を重ね、数々の問題提起をされて徳山と徳山の自然を大切にされていた氏を送るのにふさわしい場所と思ったからだ。お通夜に行ったその時から、自分の中では、明日の葬儀の時は必ず徳山に行こうと決めていた。そこで氏を送りたいと思ったからだ。

ダム堰堤からの景色をしばらく見た後、徳山会館で時間をすごす。そしてさらに奥の道を進むと、かつての「上開田」地区あたりへと行きついた。山頂あたりだったのだろうか、そこからはダム湖の景色がよく見える。雨が降るかもと思われ、実際出発の時はパラパラと来ていた天候もこの時は申し分なく、青空と白い雲がきれいに一面に広がっていた。残念ながらモヤのためクッキリ感はないが、それでもそこからのダム湖面はとても美しい。日差しが強く少し暑く感じるものの、けっこう風が強いので爽やかだ。水面は太陽の光が反射し、吹く風が湖面に小さな波模様を描く。その景色を眺めていると、そういえばここからの風景は、以前、氏からいただいた写真で見たことがあったなぁ、など思い出す。確かダムの試験湛水で各集落が沈みつつあった時の取材の時に撮られた写真だったと思う。今はそれより水面が高くなり陸部が少なくなってしまっているが、おそらく同じような場所から撮影されたもののはず。陸部の木々の緑が増えている所に時の流れを感じたりする。









風の音しか聞こえない中でしばらくダム湖の景色を眺めていると、「戸入」方面の谷から湖面ギリギリに一羽の鳶がスーッと飛んできた。水面近くを何度もカーブしながらしばらく飛んだ後、急上昇して一気に空高く舞上がっていく。その機敏な動きはまるで戦闘機の様で鋭くかっこ良い。今度は、ちょうど私の立っている所の上空あたりで、小さく弧を描き始めた。上空はかなり風がきついようで、さすがの鳶も流され、飛びにくそうに見える。しかし次にはその風をうまく翼全体で受け止め、まるでホバリングのように空中で停止する。鳶のホバリングを見たのは初めてだ。そして、その姿にしばらく見とれる。強い風にあおられながらも、身体を少し揺らしがら静止を続けるその姿は、鳶自身もそれを楽しんでいるようにも見えるし、慣れ親しんだ風景を味わっているようにも感じられる。あまりにかっこ良いので思わず鳶に手を振る。もちろん鳶が答えるはずはないのだが、その間もホバリングを続けている。鳶の目には何が見えているのだろう、私の姿など映っているのだろうか、など考える。たぶん、ほんの数秒のことだったのだろうが、そのしばしのホバリングの後に鳶は再び上空で小さく旋回を始め、やがて大きな旋回へと動きを変えて姿を消してしまった。何か不思議な感じだった。それは何か一つの厳かな儀式が終わったような、そんな感じもした。









再び湖面に目をやると、風が小さな波模様を描く、先程までと変わらぬ風景がそこにはあった。しかし自分の中では、それまでとは違う何か湧き出るような不思議なものを感じた。つい先程までは、やり場のない切なさや寂しさでどうにもならなかった自分の中の重く淀んだ心が、なぜか流れ始め、体内に吸収されてゆく、そんな感じがしたのだ。どこか爽やかささえ感じるその気持ちは、これまでに味わったことのない感覚。もちろん寂しさや悲しさが消えるはずはない。それでも先程までとは違って、相反するものが違和感なく同居する感じ。自分が何をすべきなのか、自分自身の見るべきものは何なのか、向かうべき所はどこなのか・・お前がしなければならないことははっきりしているだろう?そう言われ、教えられたような気がした。そしてその時、まだまだ氏から学ぶことは限りなく、これからも変わらず学び続けていくということを確信する。「さようなら」というより「これからも、よろしくお願いします」ということばが似合う、そんな気がするのである。

2012年5月30日に吉村朝之氏(岐阜県在住)が多臓器不全で他界されました。生前のご厚情に深く感謝するとともに、謹んで哀悼の意を表します。






http://www.geocities.jp/kondodoraibuiko_ne021/index.html
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【2012/06/09 11:27】 | その他 | page top↑
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